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2008年6月15日日曜日

アーティスト・宮田篤

アートホリックな人のいまをお届けするこのコーナーの
第11回目は、アーティスト・宮田篤さんにお話をうかがいました。



昨年秋から今年春にかけて「はくぶつ感」「としょ感」「かんそう曲」と個展が続いた宮田さんですが、振り返ってみていかがでしたか?
この他にも名古屋市美や西尾市でワークショップをしたり、「Wあつしの大運動会」を横浜でやったり、大学の基金をいただいてオランダに行ったりしました。ひとつひとつ振り返るといろいろやっていたなぁ、という感じがしますが、まだまだ、もっといろいろやりたいです。

こ れらの個展は独立しているものの、「はくぶつ感」は名古屋市美術館で行ったワークショップ、「としょ感」は「はくぶつ感」、そして「かんそう曲」は「と しょ感」の流れを受けて展開されていて、三部作のような印象もありました。もともとそういった展開を目論んでいたのですか?
「としょ感」と「かんそう曲」は先行する展覧会期の終りごろに次の話をいただいたので、とくに三部作にしようという考えはありませんでした。ただ個展に限らず、何かやるときは前のものと繋げて考えることが多いです。

宮田さんの個展は作品を見るだけではなく、会期中に宮田さんが来場者を巻き込んで行うワークショップがとても楽しいのですが、ワークショップにはどんなものがありますか?
ちらし彫刻、微分帖、ポスティングシステム、百日オセロ、みちばたオセロ、おとしりとり、3分コッキング、二色恋、りんかく戦などがあります。

「ち らし彫刻」というのは、チラシに印刷された文字や写真のなかにある直線から、好きなものを選んで折っていくと出来上がる立体で、ちょっとコツが分かれば誰 でも作ることが出来ます。出来上がったら空き箱に乗せてトントン相撲をします。折り上がったものはそれぞれ進み方が違ったりして、そのために叩き方や立体 の成り立たせ方に工夫をするなど、取り組みはけっこう白熱することが多いです。

和紙に自分で図案を描いて、それで「ちらし彫刻」をする、というのも今考えていて、8月のワークショップに向けて実験しています。

「微分帖」は共同作文ワークショップで、参加者が文章をちょっとずつ追加していくのですが、追加のしかたがちょっと変です。実際に二つ折りした紙に文を書いて、挟み込んでいくので、こんなふうに真ん中の文が増えていきます。


微分帖 Apl.25 2008 ⑤

花の蜜を
吸いながら歩く小学生 花をつんでは捨てて歩くので
通ったあとには花の残がいの列が出来る。

花の蜜を
吸いながら歩く小学生 東京から
大阪まで 3ヶ月を
かけて 花をつんでは捨てて歩くので
通ったあとには花の残がいの列が出来る。

花の蜜を
吸いながら歩く小学生 東京から
大阪まで 車をよけて
人をよけて 猫にはたまについて行く
という感じで 3ヶ月を
かけて 花をつんでは捨てて歩くので
通ったあとには花の残がいの列が出来る。

花の蜜を
吸いながら歩く小学生 東京から
大阪まで 車をよけて
人をよけて でも
たまにさみしい ときも
あるので 猫にはたまについて行く
という感じで 3ヶ月を
かけて 花をつんでは捨てて歩くので
通ったあとには花の残がいの列が出来る。

ワークショップを始められたきっかけはなんですか?
19 歳のころにはもう「ちらし彫刻」のアイデアはあったのですが、それを作品にすることまでは考えていませんでした。その後、野村誠さんや山田珠実さんなどの 作曲家や振付家、また取手アートプロジェクト、愛知県児童総合センター、NPO子どもとアーティストの出会いなど、人と関わりながら何かを作っていく人や 場所を知ることで、作品へと展開していったように思います。

ただ、比較的伝わりやすいので普段ぼくもワークショップと言っていますが、自分のやっていることはいわゆる「ワークショップ」ではないように思っています。

ワークショップは絵画や映像、マンガ作品の制作にどう影響していると思われますか?
ぼ くはどのような形式の作品でも、「思いつき」をとても大切にしています。出来るだけ頭に浮かんだことを「思いついちゃったからしょうがない」というような 態度でそのまま作品にしたいと思っていて、それはたぶん、作品について難しく考えすぎて尻すぼみになってしまうことからぼくを助けています。

そこで、いろんな形式の作品をつくることについてなのですが、それぞれの形式が他に対して具体的な影響を持つことはあまりないように感じています。間接的なものはあるかもしれませんが、どれも「自然につくっている」という感じです。

今春、大学の基金で海外研修に行かれたそうですが、その時の楽しいエピソードがあればお聞かせください。また影響を受けたことはありますか?
ド イツで泊まったホステルで、メキシコ人とドイツ人と一緒に英語で「微分帖」をしたのは、とても楽しかったです。「微分帖」は「美文調」から来ていて、それ ぞれThe differential bookとThe elegant prose writingという意味だ、と言ってみたら、分かったような顔をしていました。その翌日市鉄がストライキしたのも、今となっては楽しかったかなぁ。
研 修では「日本語の通じない人と何かをつくること」を考えていたので、それに協力してくれる人を探そうと、いろんな外国人や日本人と話しました。影響という わけではないかもしれませんが、その中で何度もつたない英語で自分のことを話した経験は、いま自分がなにをしようといているのかを、普段とは違うかたちで 確認することに繋がったような気がしています。

東海のアートシーンについて感じていらっしゃることがあれば聞かせてください。
東 海地方は、人口に対してアートNPOが少ないようです。データとしては2年前のものしか見ていないので間違っているかもしれませんが、実感としても多いよ うには感じません。もちろんきちんと活動を行っているところはあるし、数が多ければよいというものではありませんが、できれば東海に制作の拠点を置いてい きたいと思っているぼくにとっては、ワークショップなどの場を一緒に考えてくれるかもしれないアートNPOなどがもっとあればいいな、とつい思ってしまい ます。

宮田 篤(みやたあつし)http://kousinn.exblog.jp/

1984 愛知県生まれ、好きな食べ物はうめぼし
2007 愛知県立芸術大学美術学部美術科油画専攻卒業
     同大学院美術研究科美術専攻在籍
2006より野村誠、山中カメラ、深澤孝史、尾崎祐太ほかとアーティストグループ、ACD(あーだこーだけーだ)結成。山中カメラとのアートユニット、Wあつし結成。
2008 片岡球子奨学基金を得てオランダ短期滞在

■主な個展
2005 ほくほく星に進路をとれ(エビスアートラボ/名古屋)
2007 はくぶつ感(U8projects/小牧)
2008 としょ感(エビスアートラボ/名古屋)
     かんそう曲(鑓水青年美術館/東京)

■主なグループ展
2005 杣立つ(ガレリアフィナルテ/名古屋)
     GOLDEN YEAR'05(エビスアートラボ/名古屋)
2006 蜜干し展覧会(名古屋市民ギャラリー矢田)
     取手アートプロジェクト2006(茨城県取手市内各所)
2007 リキテックスビエンナーレ≪奨励賞≫(スパイラル/東京)
     本から街が見えた時(愛知県西尾市高砂町商店街)
     Wあつしの大運動会(BankART1929・BankARTstudioNYK/横浜)

■ワークショップ
2007 びじゅつ感(名古屋市美術館)

■主なテキスト
●雑誌・書籍
「びじゅつ感ワークショップについて」 角田美奈子 平成19年度名古屋市美術館研究紀要/2008

レビュー 田中由紀子 美術手帖/2008年1月号
●その他
「うめぼしのひと」 角田美奈子 はくぶつ感のためのテキスト/2007
「ふでばこの宇宙」 水野永遠 はくぶつ感のためのテキスト/2007


写真: 《ちらし彫刻庭園》 ちらし・ポスターなど 2007