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2010年3月15日月曜日

アインソフディスパッチ 天野智恵子

アートホリックな人のいまをお届けするこのコーナー。今回は、円頓寺商店街のセレクトショップJAMJAM店内を通り抜けたスペースにある隠れ家的ギャラリー、アインソフディスパッチのオーナーの天野智恵子さんにお話をうかがいました。


アートに興味を持ったきっかけは?

作家の杉本充さんと出会ったことです。保育科で学んでいたのですが、実習で向いていないことに気づきました。私は人の下で働くのは苦手だし、保育の仕事には適性のある人でなければ就いてはいけないと。それで学校が楽しくなくなったのですが、当時、造形科目を担当されていた杉本さんの研究室に行くと制作中の作品や美術書があり、アートに興味を持ち始めました。美大を受け直そうと杉本さんに相談したところ、大学よりも現場の方が勉強になると、画廊に連れて行ってもらうようになり、ちょうどアシスタントを募集していたギャラリーに就職。産休も含めて、10年くらいそこで働きました。

その後、独立しようと思ったのはなぜですか?

ギャラリー経営には経費がかかるので、独立はできないと思っていました。でも、私がいいと思う作家を勤務先のギャラリーでは扱えない場合も多く、ならば自分で立ち上げるしかないと。当初、展示場所はなくていいと考えていて、フリーでキュレーションをするために事務所を探していたところ、JAMJAMさんが移転先店舗の奥のスペースを使わないかと声をかけてくれたんです。JAMJAMさんの顧客にはデザイナーやクリエイターなど一点物を好まれる方が多く、部屋にアートが欲しいけれどどこで買っていいのかわからないという人も。独立してすぐにお客さんを呼ぶのは難しいですが、そういう方がお客さんになってくれました。

JAMJAMさんには、こちらの取扱作家とのコラボ商品もありますね。

ふるかはひでたかさんの陶器のかけらのペンダントや、日めくりTシャツ、大竹司さんの切り絵モチーフのワッペンなどがあります。ワッペンは、JAMJAMさんが専門業者さんに手配した縁で扱っていただいてます。グッズをギャラリーに出すと遊びっぽくなりがちですが、JAMJAMさんに置いていただけることで客層が広がります。服屋さんに来るような感覚で画廊にも来てほしいので、グッズがそのきっかけになればと。

商店街にあるメリットはありますか?

雨に濡れないこと(笑)。アーケードがあるので、搬入搬出は楽です。古い商店街ですが、若い世代にはあまり知られていないので、円頓寺にあると説明しても通じないことも。七夕祭りなどには相当の集客がありますが、イベントに来た人が来廊してくれることはほとんどないので、商店街にあるメリットは今の段階では、残念ながらあまり感じません。

どんな作家や作品に魅力を感じますか?

職人的な、緻密で仕上がりが美しい作品が好きですね。見せ方がうまい作家にも魅力を感じます。あと、決まりすぎず、スッとはずした感じに展示できる人、周りの空間や空気まで作品にできる作家。スゴイなと思う作品をつくる作家は、すべて尊敬できます。

アインソフディスパッチというギャラリー名の由来は?

「概念外」「何にもない」という意味のギリシャ語「アインソフ」と、「場所」を表す英語「ディスパッチ」の造語で、私がいいと思った作家や作品を発信していく場所という意味です。ギャラリーであることがわからないとよく言われますが、「ギャラリー」とすると来る人を限定してしまうので、あえて「ギャラリー」とつけませんでした。

開廊して3年半になりますが、ギャラリーを運営する上での悩みや葛藤はありますか?

悩みや葛藤はないわけではありませんが、どんな仕事にもありますし、それを言っても仕方がありません。アートを扱う以上、楽しい場所でありたいので、たいへんなことは出さないようにしています。

今後、展開していきたいことはありますか?

今月開催のブックマークナゴヤに初参加します(下記参照)。個展を開催していくのが精いっぱいでしたが、そろそろ外部との接点も持たなければと。これまでも多くの人に来ていただくために、見せるもののクオリティは高いまま、ギャラリーの敷居を下げることを心がけていましたが、個展形式では新しいお客さんになかなか来ていただけません。アート以外のイベントに参加することによって、こういう場所があることを多くの人に知ってもらえるチャンスになるのではと。外部とのネットワークをつくることで、古くからあるギャラリーがやってこなかったことに積極的に挑戦していきたいです。

名古屋のアートシーンについてどう思われますか?

もっとにぎやかにしていきたいですが、具体的にこういうことをしたいとかはありません。ここを運営していくことが、名古屋のアートシーンを活性化させる一つになればいいなと。いい作家がいて、プレゼンできるギャラリストがいて、評価するキュレーターや評論家がいて、作家を支援するコレクターがいて…といろいろな人がつながっていかないと活性化していかないと思います。


■展覧会スケジュール

MOOK

会期:2010年3月20日(土)~4月4日(日)木曜休廊
時間:13:00~21:00
会場:アインソフディスパッチ
名古屋市西区那古野2-16-10
052-541-3456、http://AinSophDispatch.org

参加作家:川田英二、平田あすか、荒木由香里、ふるかはひでたか、近藤ケイジャン、大竹司、阿部大介、岡田裕樹、碓井ゆい、石崎誠和、伊藤正人、テラオハルミ

写真:EXTRA TIGER 2010 展示風景 撮影/山口幸一