アートホリックな人のいまをお届けするこのコーナー。今回はアートラボあいち1Fに作品を展示中の鈴木雅明さんにお話を伺いました。
鈴木雅明 《無題》 キャンバス・油彩、2011年 |
アートとの出会いについて教えてください。
子どもの頃から絵を描くことが好きでした。しかしそれはアートとして絵を描くというよりもマンガを読んだりゲームをしたりするのと同じような感覚のものだったと思います。
アートを意識するようになったのはもっとずっと後で大学に入ってからだと思います。中村英樹先生の講義で白髪一雄が綱にぶら下がって汗だくで足で絵を描いている映像を見たときの強烈な印象が本当の意味でのアートとの出会いだったと思います。
夜の街角の情景を描いた作品で注目されましたが夜の街を描くようになったのはなぜですか?
僕は大学で洋画コースに在籍していました。2年生までは課題があってそれを一生懸命こなすという感じでしたが
3年生になってからは自由課題という何をやっても良いという課題に変わりました。
そこで何を描こうかいろいろ考えたのですが結局何も描くものが見つからず、彫刻コースで粘土や樹脂を触らせてもらったり、商店街のアートイベントを手伝ったりしていました。
そして作品らしい作品を作れないまま卒業制作の時期が来て、それでも自分は絵が描きたくて絵を描くことにしました。しかしやはり何を描いたらいいのかがさっぱりわかりません。そこでいろいろなものを写真に撮ってそれを見ながら描けば描けるのではと思い身近な風景を写真に撮ってそれを見ながら描くようになりました。制作を進めていく中で夜に撮影した写真を見ながら描いたものがありました。昼間に撮影する写真とは違って夜写真を撮ろうとするとどうしてもブレたりボケたりしてしまってうまく撮ることができません。しかし輪郭や形が曖昧になったイメージは絵の中で自由に輪郭や形を決めることができ、僕にとってはとても描きやすいイメージでした。
夜の街の風景を描いているのでロマンチックとか寂しい、街灯の光が希望の光に見えるといった感想を頂くことが多かったのですが僕自身はそういう感情を持って制作したことは一度もありません。
むしろイメージに対してはもっとクールというか、感情移入するのではなく夜景はあくまでも絵を描くためのイメージのひとつと考えています。
2005年に第4回夢広場はるひ絵画ビエンナーレで夢広場はるひ大賞、若手平面作家の登竜門といわれるシェル美術賞2005でグランプリを受賞されたことは鈴木さんの制作活動にどのような影響がありましたか?
2005年は大学院に行くための費用を貯めるためにアルバイトをしながら絵を描いていました。大学を出てからの制作は締め切りも講評会もないので制作のペースが乱れることがあって一つの区切りとしてコンクールに出品するようにしていました。受賞が直接何かにつながったということはありませんでしたが受賞後しばらくは新聞、雑誌などで広報していただく機会が増えたと思います。
大学院の学費を賞金でまかなえたことが一番嬉しかったです。
最近、作風をがらりと変えられたのはなぜですか?
夜景の作品を描きはじめて5年くらい経つのですが、なかなか作品を展開させることができずにいました。夜景じゃなく昼間や朝の日差しを描くということも考えましたがイメージを変えるだけでは作品が前進したことにはならないんじゃないかと思いました。そしてイメージをあらわすだけならば写真やCGなど他のメディアでも良いわけで絵画はそれだけで進めていけるものではないのかなという気がしています。
見る人に作風ががらりと変わった印象を与えるのは今の作品が夜景の仕事とかなり見た印象が違うからだと思います。しかし僕の中では今までの作品とも繋がっていて必然性を持って制作しています。まだ試行錯誤している段階でこれからも作品は変わっていくと思います。
木々の枝や、木の葉を揺らす風、木漏れ日がのびやかなストロークで表現されていますが鈴木さんが制作する上でいま大切にしたいことは何ですか?
僕が今まで制作してきた夜景の作品では写真をベースにしていることもあり、最初に描くイメージが大方決まっていました。しかし今制作している作品では描くイメージを先に持つのではなく、描くことの積み重ねの中からイメージを探ろうとしています。ストロークが枝や木に見えてきて、それで木や枝を描いたものが多くなっていますが本当は描くものは何だって良かったのです。描くということを大切にして制作をしていきたいと思っています。
鈴木さんが運営メンバーとして関わるアーティストランの展示スペース、GALLERY GOHONがオープンして1年経ちましたが、スペースの運営は鈴木さんの制作にどんな影響がありましたか?
GALLERY GOHONは2010年11月にオープンして1年経ちました。2年間限定のプロジェクトなのですでに半分の期間が過ぎました。1年の間にもたくさんの作家さんや美術に関係している方々が訪れて下さり今後も制作活動を続けていく上で大きな刺激をいただきました。それは僕だけではなくGOHONのメンバー全員に言えると思います。
作品制作にダイレクトに影響したというよりも考え方や制作に取り組む姿勢など作家として活動を続けていく上での影響の方が大きかったです。
アートラボあいち1Fスペースでの作品展示やGOHONでの個展、masayoshi suzukiギャラリーでのグループ展と発表の機会がここのところ重なりましたが来年はどのように展開していきたいですか?
今のところ展示の予定もあまりないので、発表を前提に制作するというよりは今回の一連の展示での作品の問題点や展開などをじっくり探りながら制作できればと思います。
東海のアートシーンについてどう思われますか?
今まで愛知に住みながら制作してきましたが愛知のアートシーンに触れる機会があまりなかったので正直よくわかりません。でもGOHONに来てくれる作家さんや学生さんなどと話しをしたり展示を見に行ったりする中で良い作品を着実に作り続けている作家さんがたくさんいるなぁという印象を持ちました。あとあいちトリエンナーレの影響もとても大きいと思います。アートラボあいちなど若い作家が発表できる機会も増えてきていて僕が大学に入った頃よりも活気があるように思います。
■鈴木雅明プロフィール
1981 愛知県生まれ
2004 名古屋造形芸術大学
洋画コース卒業
2006 第21回 ホルベインスカラシップ 奨学者
2008 愛知県立芸術大学大学院
美術研究科修了
主な個展
2006 ギャラリーセラー (愛知)
2006 はるひ美術館 (愛知)
2007 Bunkamura Gallery (東京)
2008 ギャラリーセラー (愛知)
2008 Bunkamura Gallery (東京)
2009 ギャラリーセラー (東京)
2010 松坂屋本店
美術画廊 (愛知)
2011 GALLERY GOHON(愛知)
主なグループ展
2004 シェル美術賞展2004 (代官山ヒルサイドフォーラム / 東京)
2005 第4回 夢広場はるひ絵画ビエンナーレ (はるひ美術館 / 愛知)
2005 シェル美術賞展2005 (代官山ヒルサイドフォーラム / 東京)
2005 fine ship (名古屋市民ギャラリー矢田 / 愛知)
2006 名古屋市美術館特別展 「名古屋」の美術 -これまでとこれから- (名古屋市美術館 / 愛知)
2007 第26回 損保ジャパン美術財団選抜奨励展(損保ジャパン東郷青児美術館 / 東京)
2009 第1回 青木繁記念大賞西日本美術展 (石橋美術館 / 福岡)
2009 あいちアートの森
広小路プロジェクト (SMBCパーク栄 / 愛知)
2010 MEETING 2010 (清須市はるひ美術館 / 愛知)
2010 GALLERY GOHON OPENING EXHIBITION (GALLERY GOHON / 愛知)
2011 AICHI GENE -some floating affairs- (豊田市美術館 展示室9 / 愛知)
2011 ART LINE 01 (masayoshi suzuki gallery / 愛知)
受賞
2005年 第4回 夢広場はるひ絵画ビエンナーレ 夢広場はるひ大賞
2005年 シェル美術賞2005 グランプリ
2007年 第26回 損保ジャパン美術財団選抜奨励展 秀作賞