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2012年6月14日木曜日

アーティスト・濱田樹里


アートホリックな人のいまをお届けするこのコーナー。今回は、第5回東山魁夷記念 日経日本画大賞展大賞を受賞された濱田樹里さんにお話を伺いました。

《伏す花》2007年、200×1680cm
  コバヤシ画廊での展示風景 撮影/末正真礼生
濱田さんの制作について、小学校高学年までいらっしゃったインドネシアでの体験やそこで培われた色彩感覚などがしばしば言われますが、帰国時にギャップはありましたか?

そのことを強く感じるようになったのは、作家活動を始めたころです。モチーフを探したり、モチーフと向かい合う時間が持てるようになり、独自性を求めるようになった時、自分自身の体験から作風を変えていこうと考え、現在の方向性にたどり着きました。美術を志したころは写実が好きで、実際の色を大切にして描いていましたが、大学院を修了するころに自分のテーマが決まり、そこでインドネシアでの体験や色彩が意識されるようになりました。

大学時代はどのような作品を描いていたのですか?

重厚感のある人物の群像です。やはり大きい作品を制作していました。色調はモノトーンに近く、墨や胡粉、箔を使って描いていました。

大学院を修了後、自分のスタイルで描こうと思った時、どのように変わられたのですか?

モチーフが変わりました。それまでは人物を描くことで生死観を表現してましたが、大学院を出るころには人物と植物と組み合わせることで、共存がテーマに。発表し始めるころには人物を画面から外し、鑑賞者に人物になっていただき、会場全体で共存というテーマが成り立つような感じになりました。その時に色彩も変化して現在のようになりました。

美術との出会いについて教えてください。

中学生のころは勉強も好きでしたが、答えがないものに魅力を感じて美術に惹かれました。それで県立旭丘高校美術科に入学。12年生で油絵、日本画、彫刻、デザインをひと通り学び、3年生で日本画を選択しました。彫刻も油絵も大好きでしたが、日本画の素材感というか岩絵具の粒子の土のような肌触りや色彩、それらが平面の中で構成される美しさが、将来的に自分のテーマとつながっていくんじゃないかという直感がありました。

濱田さんの作品にみられるダイナミックなうねりは、油絵具やアクリル絵具の方が描きやすいのでは?

たしかに油絵具やアクリル絵具の方が描きやすいですが、岩絵具の粒子感が大地そのものに近いというのが、私にとっての日本画の魅力です。岩絵具の粒子が画面に沈澱していくさまが、大地に雨が染み込むようでもあり、描くという私の動作そのものが、雨粒から川の流れをつくり出していくような感覚というか。赤い色合いも地層の堆積だったり地平線であったり、マグマのように見えるという方もいらっしゃいますが、描くという行為により、岩絵具の粒子でそういう動きをつくり出そうと意識しながら描いています。

日本画は写生から小下図、大下図と拡大させていきますが、濱田さんもそのようにして描くのですか?

ほとんど直接描いていきます。マジックやコンテで30cm幅ほどのエスキースはざっくり描きますが、それを拡大していくという作業はしません。私の作品は20mくらい幅があるので、画面を見ながらイメージが浮かんでくる瞬間に描いていきます。画面に向かう時はひいて構図を見ますが、近寄った時にまた違うものが見えてくることを自分で味わいながらイメージを作るので、小下図を拡大していく方法ではそこが難しいです。

20mもある大画面をどのように描かれるのですか?

何枚かに分割したパネルに、スライドさせながら描いていきます。アトリエではすべてを並べて描くことはスペース的に難しいので、頭の中でイメージを作り、それを信じて描いていきます。

大画面の作品をさらにコの字型に展示されることが多く、見る人は巨大な植物や地層の中に放り込まれるような感覚を覚えますが、空間的な展示にこだわっているのですか?

見る人にそういう感覚を持っていただきたくて、画廊で展示する時には、必ず鑑賞者を取り囲むようにコの字、もしくは360度に近い形に展示しています。

直接、影響を受けた作家はいますか?

特にこの方という人はいません。インドネシアにいた時に見た彫刻や絵画の重厚感や装飾 性、色みや形からの影響が大きいです。アジアの魅力が溢れていた反面、オランダの植民地だったことからヨーロッパ的で、どこにでも美術品があり、そういうものにも触れていました。

今後の展開についてどうお考えですか?

私は徐々に変わっていく方なので、最近では天と地が動くような、波のような羽のような流れが強くなってきています。そういうものが今後増えてくるかと思いますが、あらためて変えていこうとは思っていません。私が生まれて生きていく中で、自分自身の人生を絵にしていけば、ほかにないものをつくって残せるのではないかと。それが表現者の使命だと思います。

大学で教えるようになると制作の時間が制限されがちですが、濱田さんは着々と制作もされて評価が高まっているように思われます。

それまでは週にいくつか美術に関する仕事を掛け持ちしていましたが、大学教員になってからは、研究者であるという意識が生まれ、研究の機会を与えていただいているので実績を残したいという思いがあります。学生自身もある意味で研究者であってほしいので、シビアな関係でないとアトリエの空気は保てないですし、そういう姿勢で作家活動をしなければ学生には伝わらない事もあるのではと思います。
また、表現者として社会へ出て10年余りが過ぎ、たくさんの方々に支えられ続けることができました。その結果、少しずつ評価をいただけていると感謝致しております。今後も自分自身と向き合い制作していきたいと思います。

東海エリアのアートシーンについてどう思われますか?

美術に関心を持つ人が増えてほしいと思います。特別なものでなく、身近なものとして美術を楽しんで欲しいです。

濱田樹里 プロフィール
1973 インドネシア生まれ
1992 愛知県立旭丘高等学校美術科卒
1997 愛知県立芸術大学 美術学部日本画専攻卒業(卒業制作 買い上げ賞/桑原賞)
1999 愛知県立芸術大学大学院 美術研究科修了(修了制作 買い上げ賞)
2000 愛知県立芸術大学大学院 研修生修了
現在、名古屋造形大学専任講師、愛知県立芸術大学非常勤講師

個展
2002 すどう美術館(銀座)
2003 コバヤシ画廊(銀座) ※以後、現在まで同画廊で毎年開催
2006 ギャラリーIDF(名古屋) ※200720082011
   宮坂画廊(銀座) ※20072011
2007 ヒルトン名古屋 レストランシーズン(名古屋)
2008 潺画廊(駒沢)
2009 「根源の在処」濱田樹里展 現代美術の発見Ⅲテーマ展 あいちトリエンナーレ2010に向けて (愛知県美術館/名古屋)
2011 「生命の奔流」 濱田樹里展(一宮市三岸節子記念美術館/一宮)

主なグループ展
2000 第2回雄雄会日本画展(松坂屋/銀座・名古屋) ※以後、現在まで毎年出品
(2010.会場は松坂屋/銀座・名古屋、大丸/心斎橋)
   「岩絵具の可能性を求めてⅠ」(古川美術館/名古屋)
 2nd contemporary young painters exhibition from japan (バングラディシュ)
2003 5th contemporary young painters exhibition from japan (バングラディシュ)
2004 「岩絵具の可能性を求めてⅡ」(古川美術館/名古屋)
2005 「異色の日本画展」(ギャラリーIDF/名古屋)
2006  「様々な二ホン画」vol.1(アートスペース羅針盤/京橋)
SHIHENS」ラサ・サラ・ナランハギャラリー(スペイン/バレンシア)
2007 KIAF(ギャラリー坂巻ブース/韓国)
   第19回 香流会日本画小品展(松屋/銀座)
2008 第112008長湫会日本画展(高島屋/日本橋・名古屋)※~2010
   うづら会日本画展(三越/日本橋・名古屋)※以後、現在まで毎年出品
   第7回菅楯彦大賞展(高島屋/大阪倉吉博物館)
2009 長湫会選抜展(名都美術館/名古屋)20102011
   「日本画の今 若手作家の挑戦」(古川美術館/名古屋)
2010 第29回損保ジャパン美術財団選抜奨励展(損保ジャパン東郷青児美術館/新宿)
2012 VOCA展出品(上野の森美術館/東京)
 第5回東山魁夷記念 日経日本画大賞展


受賞暦
2009 名古屋市芸術奨励賞新人賞受賞
2012 第5回東山魁夷記念 日経日本画大賞展大賞

パブリックコレクション
高橋コレクション
平塚市美術館