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2012年9月15日土曜日

アーティスト・荒木由香里

アートホリックな人のいまをお届けするこのコーナー。今回は、愛知県美術館での個展「APMoA Project ARCH 何ものでもある何でもないもの」を終えたばかりの荒木由香里さんにお話を伺いました。


アートとの出会いについておしえてください。

《星を想う場所》 2011年
小さいころから美術館や博物館にはよく連れて行ってもらっていて、見るのは好きでした。書道も習っていて、中学生のころまでは書道で生きていこうと思っていたほど。天邪鬼だったのでおもちゃが欲しくても欲しいと言えず、段ボールや紙、海で拾った石や流木を使って、自分でつくって遊んでいました。書道は手本どおりに書くのが次第に楽しくなくなってきて、並行してやっていた物をつくるのは楽しくて、そのまま来たという感じです。

その流れで自然に美大に進学されたのですか?

美大に行くと当然のように思っていました。母方の親戚は木箱をつくるお店をしていて、父方には絵を描いている人や陶芸をやっている人がいて、ものづくりや美術が身近にあったからだと思います。それからNHK教育テレビの影響も。「できるかな」など子ども向けの工作の番組をよく見ていました。人形の男の子が魔法のメガネをかけると物と会話ができるようになり、そこから社会の仕組みを理解していくという「それいけノンタック」も大好きでした。現在の、物も生き物も対等という考え方やものの捉え方に影響を受けていると思います。

彫刻科に進んだのはなぜですか?

絵を描きたいと思ったことがなく、つくりたいものはいつも立体で浮かんでくるんです。書道をやっている時も、一角一角が重なって形になっていくのを立体のように捉えていました。彫刻科に進んだのは自然な選択だったと思います。

当初から既製品を使った作品を発表されていますが、既製品に興味を持ったきっかけは?

大学2年生の夏休みに既製品を使った作品を制作するというレディメイドの宿題が出たんです。それまでは光とか建物の空間を利用した作品を作っていましたが、雑貨が好きだし、物を集める癖もあるので、好きな素材を扱えるのがとても楽しくて。その時はシャンプーハットを大量に買ってきて全身に装着する立体作品をつくりました。それは納得のいくものではなかったのですが、そこで味をしめたというか。課題は半期に1点くらいのペースだったので、既製品を使った作品を自分で勝手にどんどん制作しました。

荒木さんが大学3年生の時の学内での展示を見たことがあります。その時は課題だと思われますが、空間にテグスを張った作品を発表されていましたね。

ソフトスカルプチャーというテーマで制作した課題の発表でしたが、テグスを張っていた時、それがとても美しく見える瞬間があり、初めて自分の作品に感動したことを覚えています。想定を超えるものが目の前に現れた驚きというのでしょうか。
制作する時は、最初に完成時のシルエットが頭の中に360度で浮かんできます。この時には細部まで決めず、制作しながら色やバランス、ボリュームを考えつつ、付けたり取ったりしていきます。絵を描いていく感じに似ているかもしれません。また同時に粘土で取ったり付けたりするようにもつくります。そうすることで、最初の完成イメージを超えられるような作品をつくれたらと思っています。

初期の代表作《完璧なペア》は、どういうところから着想されたのですか?

《完璧なペア》 2007年
大学を卒業後、作家としてやっていくうえで核となるテーマが欲しいと考えていた時に、祖母が亡くなり、ロンドンでテロが起こりました。その時、私もいつ死ぬかわからないけど今の作品じゃ死ねない、よりよく生きていくために制作がしたいと思いました。なにができるか模索していた時、棺桶に納められた祖母への違和感を思い出しました。化粧されて花に囲まれてきれいだけど、祖母だったのに祖母じゃない。もう人じゃない。物が物でなくなる瞬間、靴が履かれなくなった時、それは靴なのかと。人とのつながりも見せたいと、知人の夫婦から履かなくなった靴をもらい片方ずつリボンでつないで、物の記憶や汚れがサンゴみたいに増殖するイメージでビーズを付けました。靴はもともと好きでしたが、持ち主の好みや歩き癖も出るし、その人の人生と重なる部分があるところから選びました。
でも最初はビーズじゃなくてアラザン(製菓用の砂糖)だったんです。きれいだけど儚い。いつなくなるかわからないというところを表現したくて。でもそれでは保存できないのでビーズに変えました。ビーズは宝石に似せてつくられたものだけれど、アラザン同様に儚さがある。宝石を超えるような扱い方ができたらいいなと。

球体シリーズをつくられたきっかけは?

《Yellow》 2012年
それまでは個展のテーマはありませんでしたが、一つのテーマで空間全体を構成してみようと思い、「サーカス」というテーマで個展をしました。ほかの作品はサーカスという言葉やイメージを分解してつくっていきましたが、楽しい雰囲気やいろんな要素を凝縮した作品があってもいいなと思い制作したのが球体シリーズの最初の一点です。

それまでは既製品といっても、記憶を宿す物や忘れ去られた玩具など古い物を使っていましたが、球体シリーズからは古い物にこだわらず新しい物も使われていますね。

古い物がよくて新しい物が魅力に欠けるという考え方に問題があるなと思い、どちらも対等に混在させていこうと。今は色、素材、形などものの捉え方がテーマ。見慣れたものも角度によって違って見えたり、柔らかそうに見えてもそうじゃなかったり。愛知県美術館での展示では、ノートに書かれた感想がみんな違っているのがおもしろいです。実験というか作品そのものが着地点ではなく、作品をとおしてものの見え方を考えるのが着地点。それが楽しいので、このシリーズはもう少し続けていくつもりです。

これから挑戦したいことはありますか?

球体シリーズを現在のような球体ではなく、空間の中にある目には見えない形を引き出してつくったり、言葉でパーツを集めたシリーズ、たとえば「女」なら女性をイメージさせる物を集めた作品を制作してみたいです。既製品を使っている点で、私の作品は誰にでもできるかもしれません。でも世の中に無数にある既製品の中から私がおもしろいと思う形、きれいと思う物を集めているので、ほかの人にはできないと思うし、まねのできない作品を目指したいです。

東海エリアのアートシーンについてどう思いますか?

関西でも展示する機会がありますが、東海はアートスポットのある場所が固まっているので、アーティストやアート関係者が仲がよくていいと思います。オルタナティブスペースやギャラリーも増えてきているので、ますますおもしろくなるのではないかと思います。


荒木由香里プロフィール
http://yukariaraki.com

1983 三重県生まれ
2005 名古屋芸術大学美術学部造形科卒業
2006 同研究生修了

個展
2007 荒木由香里 展(AIN SOPH DISPATCH/名古屋)
    荒木由香里 展(伊勢現代美術館/三重)
2008  Tiny tiny garden(足助病院/愛知)
    荒木由香里 展(AIN SOPH DISPATCH/名古屋)
    海ヨリキタリテ(弁天サロン/愛知)
2009 waltz(studio J/大阪)
2010 circus(AIN SOPH DISPATCH/名古屋)
2011 Constellation (studio J/大阪)
    あいちトリエンナーレ地域展開事業
    あいちアートプログラム 荒木由香里展 星を想う場所 (佐久島/愛知)
    Epistemology (AIN SOPH DISPATCH/名古屋)
2012 APMoA Project ARCH 何ものでもある何でもないもの(愛知県美術館/名古屋)

グループ展
2003 月の茶会(佐久島/愛知)
     の素(Art&Design Center/愛知)
     まちなかアート(西春町各所/愛知)
2004 G−U(Art&Design Center/愛知)
2005 ちょっとよりみち(T.A.G. IZUTO/名古屋)
     dine.ex(Art&Design Center/愛知)
2006 ホームメイド(プラスギャラリー/愛知)
     今年もちょっとよりみち(T.A.G. IZUTO/名古屋)
2007 十三粒のヘソのゴマ展(東山荘/名古屋)
     今年もちょっとよりみち(T.A.G. IZUTO/名古屋)
2008  今年もちょっとよりみち(T.A.G. IZUTO/名古屋)
    ASYAAF(asia student & young artist art fair)(ソウル旧駅舎/韓国)
2009 眼差しと好奇心 vol.5(Soka Art Center 台北/台湾)
    アーツチャレンジ2009 新進アーティストの 発見in愛知(愛知芸術文化センタ/名古屋 )
    越後妻有アートトリエンナーレ(十日町病院/新潟)
    ART OSAKA 2009 (堂島ホテル/大阪)
    VANTAN TOKYO (GALERIE EOF/15Rue Saint Fiacre 75002/パリ、フランス)     
    エマージング•ディレクターズ•アートフェア「ULTRA002」(スパイラル/東京)
    ヨッチャンの部屋vol.4 アトリエの音楽展(大阪造形センター/大阪) 
2010 あいちアートの森 佐久島プロジェクト「雛の祭り」(弁天サロン/愛知)
MOOK (AIN SOPH DISPATCH/名古屋)
     群馬青年ビエンナーレ 2010 (群馬県立近代 美術館/群馬)
     NAVIGATION 庄司達退官記念展 (文化のみち 橦木館/名古屋)
     エマージング•ディレクターズ•アート フェア「ULTRA003」(スパイラル/東京)
2011  アートフェア京都 (ホテルモントレ京都/京都)
    ART OSAKA 2011 (ホテルグランヴィア大阪/大阪)
    ART NAGOYA 2011 (ウェスティンナゴヤキャッスル/名古屋)
    ヨッちゃんビエンナーレ2011 (de sign de> / 大阪)
2012  ART KYOTO 2011 (ホテルモントレ京都/京都)
    大イタリア展 Viva italia! (心斎橋スタンダードブックストア、studio J/大阪)
    View (アートラボあいち/名古屋)
    アートをおうちに持ち帰る。新しくて、楽しくて、温かい毎日が始まる。」展(銀座三越/東京)
    ART NAGOYA 2012 (ウェスティンナゴヤキャッスル/名古屋)


ワークショップ
2007  ゴミで植物をつくろう。(伊勢現代美術館/ 三重)
2008  サクシマのイキモノをつくろう。(弁天サロン/愛知)
2009  風景画を描こう。(やさしい家/新潟)
2011  星をつくろう。(弁天サロン/愛知)

パブリックコレクション
2012 佐久島



■展覧会スケジュール
EXTRA NUMBER
会期:9月8日(土)~22日(土)
会場:AIN SOPH DISPATCH
http://ainsophdispatch.org

+プリュス:ジ・アートフェア 003
会期:11月2日 (金) ~4 日(日)
会場:スパイラルホール(スパイラル3F)
http://systemultra.com/

「小早川コレクション 麗しのマイセン人形」展 
会期中にワークショップを開催、終了後に作品を展示します。
会期:11月23日(祝)~5月6日(祝)
会場:岐阜県現代陶芸美術館
http://www.cpm-gifu.jp/museum/01.top/index1.html

個展
会期:12月8日(土)~22日(土)
会場:AIN SOPH DISPATCH
http://ainsophdispatch.org